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…………。
「――――……」
…………ピッ、ピッ。
「ぁ……――」
「…………」
「先生っ。先生、患者さんが目を――」
……?
ピッピッ……
無機質な機械音。
突然と聞こえてきた若い女性の声。
慌てたようなその声が遠くへと消えていったのに、目の前が一気に白く開けた。
まるで長い眠りから覚めたような感覚だった。
けれど、目覚める前まで何をしていたのか、本当に眠っていたのか全く何もわからない。
あまりに不思議な感覚に一体何があったのか、誰がこの思考を得ているのかもわからない。
一呼吸おいて自分なのだと、俺は俺の存在に気がつけば、また誰か傍にくる気配がした。
「目が覚めましたか」
白衣を着た、一目で医者だとわかる格好の中年の男が俺の顔を正面から見下ろしてくるのに、俺は仰向けて寝ているのだとわかる。
尋ねられたのに咄嗟に声を出して答えられず、もどかしく身じろぎをすれば、医者の男はそっと制してきた。
「まだ無理をしないほうがいい。まだ、何も信じられないのはわかる。少しずつでいい……話をきかせてあげよう。君はずっと、眠っていただけだからね」
告げられた言葉に、俺は瞬間的に大切な何かを思い出した。
「あ」
医者の男が止めるのも構わず、俺は慣れない動作でやっとのこと腕を上げる。細い――けれど、太く長くなった腕。大きくなった手で口につけられていた堅いマスクを少しずらすと、俺は答えた。
「いえ……全部、憶えています……」
聞いたことのない嗄れた声だったが、自分のものだとはっきりわかる。
真っ白で低い天井を眺めながら言った俺を、医者の男は不思議そうな表情を返すくらい、俺は微笑んで言った。
「全部、夢で見ていたから――」
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