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「じゃあ、すばるの星をいのりに教えてやるよ――」
語れたのは、冬の空に小星をかき集めて輝くすばるの星一つ。
いつだったか。暇つぶしだった空の観察が俺に気まぐれを起こさせて、夜空の中でも、幾つもの星を集めて一つに輝く星団が一体何なのかを調べたことがあった。
それが、すばるの星だった。
幾つもの小星が寄り添いあっても、青白く輝くその星は、寿命の短い星なのだと――。
その時に俺は、もし世界が別にあったとしてもその果てまで輝き続けると信じていた星が、実はそうではないだと知った。
すばるの星は、幼い俺の“永遠”というロマンを壊した星だった。
そのせいで、俺の星語りは、すばるの星で止まってしまったのだ。
そんな俺の星語りに、いのりはいつも不満気だった。
「なっちはいつもすばるの星の話ばっかり。他に教えてくれてもいいでしょ?」
特別空が好きなわけじゃない。
もう星にロマンを感じていたわけじゃない。
けれど、壊れてしまった俺の“永遠”のロマンは、やっぱり人間の俺には“永遠”に近くて。
星の寿命は人間の時間の数千万年から数億年と、永遠と呼ぶには十分なくらいある。
きっと、すばるの星からしたらあと一瞬の輝きしか時間は残されていないのかもしれないけれど。
これから離れ離れになる俺といのりの時間は、すばるが照らす永遠の中にあるのだ。
離れている時間が、すばるが輝ける一瞬だったらいいのに。
幾つもの小星が寄り添って輝けるすばるを見ていると切なかった。
結局その日も俺はいのりに本当のことを打ち明けられないまま、離したくない手をつないで冬の夜の寒さから逃げ帰った。
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