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「さよなら」の四文字は、声にすると間違いなく俺のノドを引き裂こうとしてきた。
それなのに、ノドよりも痛む胸の鼓動は日に日に幼い俺を決断に追いやる。
情けなくも周りから苛められている気分になる弱い俺だったが、ある日ついに、いのりがいる駄菓子屋に一人で訪れた。
伝えなきゃいけない言葉は、ひゅうひゅうと風になってノドを過ぎていくばかりだったから、選んだのは涙型のチョコレート。
ませた子供だったと思う。
伝えなきゃいけない事実と本当に伝えたい気持ちを、当時の同級生たちでもなかなか手にできないそのチョコレートなら、少し大人になって渡せそうな気がしたんだ。
でも……。
渡すにはやっぱり勇気が足りなかった。
手にした涙型のチョコレートを買ってしまったら、その先どうなってしまうのか……?
せっかく用意したなけなしの小銭を熱くなるほど握りしめれば、涙型のチョコレートがぐしゃぐしゃに溶けてしまいそうだった。そうなると、渡すのにはカッコ悪すぎる。
やめよう。できない。
そう思った――いつものように高いところで空を眺めていた俺が驚いたのは、いのりが、諦めたはずの涙型のチョコレートを持って、俺を見つけに来てくれたから。
「……はい、なっち。これ」
寒い二月の日だったのに、いのりは赤くなった手を隠さず、涙型のチョコレートと一緒に差し出してきた。
買ってそのままのチョコレートは目で見ても分かるくらい手の熱に溶けてしまっていて、それ以上にわかるのは、差し出すいのりの手が震えている。
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