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震える手も、溶けてしまった涙型のチョコレートも、想像していたよりずっと、カッコ悪くなんかなくて、
「今日……二月十四日だよ。なっちに、貰ってほしくて……」
それに気がついたとき、俺はどうしたらいいのかわからなくなってしまって。
いのりが俺にとくれたそのチョコレートを、精一杯の気持ちと一緒に差し出された星型の痣がある手のひらごと叩いて、俺はその場から逃げ出したんだ。
その時、いのりがどんな顔をして逃げていく俺を見ていたかわからない。
振り返って確かめることすらできなかった。
泣かせてしまっていたかもしれない。
けれど、もう振り返っても確かめることはできない。
悲しませてしまったのは間違いない。
それでも、好きになったのは、嘘なんかじゃない。
ただ伝える勇気がなかった。
それだけだったんだ。
* * *
結局、小学生だった俺は、自分の口でいのりに本当のことを伝えられないまま町から引っ越していった。
春に近づいた三月の空を飛ぶ飛行機の中で、あの日からずっと残っていた後悔に責め立てられてながら、俺は窓の外を見て思った。
いつも下から見上げていた雲を、見下ろせるくらい高いところにいる。
高いところは好きだ。
いのりがいつも俺を見つけてくれるから。
でも、いまは少し高すぎる。
いのりが見つけられないくらいに。
高すぎると、離れすぎてしまうと、お互い傍に居ない感覚が積み重なっていつか忘れられてしまうのだろう。
俺がすばるの星だったら、きっと見つけてもらえたのだろうけど。そうやって初めてすばるの星を羨んだ。
その時、俺の願いをききとげたかのように、真昼の空がひっくり返った。
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