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それから俺たちは、離れていた時間を取り戻すかのように二人きりで話をした。
誰にも邪魔されたくなかったから、廃ビルの屋上へ、高いところを求めて。
いのりが差し入れに持ってきてくれた駄菓子を頬張って空を眺める。
「ねえ、なっち。お星さまの話をして?」
あの頃と何も変わらない放課後の過ごし方。
いのりがせがめば、俺は星語りを披露する。
「じゃあ、すばるの星語りを教えてやるよ」
でも、俺の星語りはあの頃のまま。すばるの星語りで止まっていた。
そしていのりは、少し不満げに笑う。
「なっちはいーっつも、すばるの星ばっかり」
けれど聞けば、いのりは高校の部活で天文部に入ったらしい。すばるの星で止まってしまった俺とは違い、いのりはこれから沢山の星を知っていくのだろう。
本人は物覚えが悪いから無理と笑っていたけど、その笑顔の裏に今にも泣きだしそうな表情が混じっていたのに、俺は気がついていた。
俺の胸の鼓動が一層早まって、決断を渋る俺を責め立てていく。
伝えなければならないことがあるから。
「ねえ……なっち」
「ん?」
「今からちょっとだけ待っててくれる?」
すると、決断しようとした俺に、いのりが先に帰ると言い出した。
「違うの。またすぐに来るから、ちょっとだけここで待っててほしいの。今日は、明日になるまでなっちと一緒にいたいから、ね?」
渡したいものがあるのだと、いのりはそう言って先に廃ビルの屋上を下りていった。
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