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いのりが去った後、空から雪が降ってきた。
夜空に輝く星の欠片が地上に落ちてくるように、仄かに光る雪が町を照らしている。
空から地上へちらちらと降り積もる雪を目で追いながら、俺は、いのりが笑顔で隠そうとしていた泣き顔を思い出していた。
きっと、いのりも気づいているのだ。
この幸せの正体に。
神様が意地悪なのは、優しいだけじゃないということに。
ポケットに押し込めていた紙飛行機を取り出す。
翼を小さく折りたたんだ紙飛行機は、一枚の新聞記事からできていて、大切に持っていたその“事実”を、俺は広げて目の当たりにした。
雪の欠片が古くなった新聞に滲む。見づらくなった文字を拾って読めば、そこにはとある飛行機事故の記事が綴られていた。
九年前の三月某日――正午。
春に向かっていた穏やかな空を、燻った飛行機雲が切り裂いた。
どこまでも抜けるような綺麗な青空を汚して、着陸に失敗した飛行機は多くの犠牲者を出した。
瞬く間に広がり、世間を騒がせたニュースを、当時小学生だったいのりでも知らないはずがない。
そしてその時の俺は、この町から引っ越すために、事故を起こした飛行機に乗っていたのだ。
気がつけば、九年もたっていた。
いのりは高校生になっていて、俺もまた、いのりに釣り合うように大人になってここに帰ってきたけれど、時は小学校三年生のままで止まっている。
俺の星語りがあの頃と同じ、すばるの星で止まっていたように。
広げた新聞記事をもう一度紙飛行機に折り直して、星が瞬き雪が降る夜空に飛ばす。風も少なく、紙飛行機は高いところから遠くへまっすぐ飛んだ。
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