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壁にかけられた手書きのお品書きを眺めていたら、目に飛び込んできたのは
『期間限定 カキフライ定食』
の文字。
注文を取りにきたおばちゃんに私はカキフライ定食、藤木はロース味噌カツ定食を注文した。
「うわっ、俺らと全く同じ注文だ。」
酒井さんの言葉にふわっと笑った藤木が
「シンクロニシティってやつですかね。」
と言った。
「どうだろうねぇ、みゅーちゃん?」
うん、見ているだけで暑苦しい。
「課長、やめてくれません?知ってる人がいるところでそういうこと言われるのは、恥ずかしいんですけど。」
「会社では、やってねーんだからいいだろ。」
うん、会社でやったら迷惑だから。
でも、新藤さんの色恋沙汰なんて聞いたこともなかったから、目の前で繰り広げられるやり取りを見ているのは純粋に楽しい。
藤木と何かを話すわけでもなく、なんとなく二人を見ていたら、二人の注文が先に届いた。
二人が顔を見合わせて、そのあと、こっちを見てくるものだから、お先にどうぞとすすめようと思ったら私よりも先に藤木が口を開いた。
「食べて下さい。」
柔らかな口調、それでいて断ることをさせない響き。
目の前の二人が手を合わせた後、同じリズムで割り箸を割って食べだした。
見るからに美味しそうな顔をしてカキフライを頬張る新藤さんの顔を嬉しそうに見つめる酒井さん。
でも、新藤さんは気が付いてなさそう。
あっ、気が付いたみたいだ。
「そんなに食べたいなら欲しいって言ってくれればいいじゃないですか。どうぞ?」
違うべっ。
絶対に違うべっ。
「おー、そうか。じゃぁ俺の肉もどうぞ。」
酒井さんが新藤さんの方からカキフライを一つ持って自分のお皿に載せた。
そして、誰がどう見ても自分のお皿の中で一番大きく切り分けられた味噌カツ一切れを新藤さんのお皿に。
胸の奥が温まるような、大きな愛を感じたのは私だけだろうか。
「小さいお肉でいいのに。」
「お前が腹肉つけたらな。」
うん、なんか普通のやり取りじゃない気がするけど・・・大きな愛を感じました。
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