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私のお皿に隣からポイッとロース味噌カツ定食がやってきて、私のお皿からカキフライが奪われた。
「さっきの二人の真似。」
穏やかな口調で笑う藤木の横顔を見たら、藤木もこっちを向いた。
「小さいのでいいのに。これ、大きいよ?」
「一番大きいのをあげたいって思う酒井さんの気持ちの大きさは恰好良く見えたからね。真似。」
恰好良く見えたことをすぐに真似できる藤木もけっこう恰好良いべ。
恥ずかしくて、言えないから笑っておくしかない。
気の利いた言葉の一つや二つ出てきてくれたらいいのに。
学がないってこういうことだべ。
藤木がくれたロース味噌カツ定食の味もやっぱり美味しかった。
きっと、藤木がくれたという私にとっては特別なスパイスが効いてるに違いない。
「まいう~。」
ふっと笑った声が聞こえた後
「まいう~。」
と藤木も言って、二人で笑った。
すべてを食べ終え、お手拭で手を拭いていたら藤木が
「口元を拭ってあげるってさ、普通なの?」
と聞いてきた。
「いや、普通じゃないかもしれないけど、なんか二人を見ていたらお似合い過ぎて普通か普通じゃないとかは関係ないんだなって思った。」
「本当だね。お似合いだよね。」
藤木から見てもお似合いなんだ。
藤木からしたら、たいして親しくもないだろう新藤さんとほぼ初対面の酒井さんだけど、そんな藤木からみてもお似合いに見えるという事実が眩しいべ。
羨ましいべ。
そろそろ行こうと立ち上がり、お会計を藤木がしようとしたところで、お連れ様が払っていかれましたよと小太りのおばちゃんに言われた。
おかしな人だとばかり思っていたけど、酒井さんってなんか素敵な人かもしれねーべ。
「・・・新藤さんにお礼、言っておいてもらってもいいかな?」
「もちろん。」
ただ飯を食べさせてもらった感じで、悪いなって思うって言うか。
いや、違う。
現実の世界でさらっとこういうことをする人がいることに感動したのかもしれない。
小太りのおばちゃんの
「ありがとうございました」
の声を聞きながら、夢の中の出来事みたいだなとお店を後にした。
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