大衆食堂 山本

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「まさか知り合いに会うなんて思いもよらなかった。」 そうだろうなと思う。 「これは、偶然だったのか必然だったのかだな。」 「何それ?」 ふわっと笑う声が聞こえる。 そうか、イッシーが相手だったら偶然だと思うこともきっと意味があって必然だったに違いないって話になるけど藤木が相手だとそうならないのか。 「いや、だから、偶然の再会とかするとして。その後の人生を決定づけるような再会だったとしたらそれは多分、偶然の再会ではなくてその人の人生にとって必然で、再会するべくして再会したって話になるんじゃないかっていうオカ研的発想。」 納得するのか、しないのか分からない反応を待つのはドキドキする。 ここで、そっち系なのかって反応されたら淋しいけど男性は現実主義的なイメージだしな。 「へー。なるほど。ってことはさ、僕たちが山岸さんと新藤君のおかげで出会えたのも偶然じゃなくて必然だといいね。」 ニコッと笑って、とんでもないことを言ったべ。 生唾を飲み込んだ音が耳に響くとか、一瞬、まわりの喧噪が消えたとか、そんなことよりも藤木のにっこり笑った顔に見とれたべ。 「あっ、うん、きっと必然かな。イッシーと山根の関係とか・・・。」 ゴニョゴニョとイッシーと山根を引き合いに出してこの会話の幕引きを謀ってみるも。 「僕と絵里ちゃんの関係もね。」 ウホッ。 え、え、絵里ちゃんって。 動揺するべ。 意味分かんないことをしたくなるべ。 目の前に階段があったら、駆け上がりたくなるべ。 「先に上まで行った方の勝ちだべっ。」 酔っ払ってないけど、言い逃げのスタートダッシュで階段を2段抜かしで駆け上がった。 「えっ!?」 藤木の声が聞こえたけど、関係ないべ。 動揺したんだし、意味わかんないことをしてないとおかしなことを口走るに決まってる。 後ろから革靴がコンクリートを蹴る音がするけど、負けないぞ。 もうちょっとで階段が終わるってところで、並ばれた。 そして同時にゴール。
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