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「ごっつぁんでしたー。」
お店の外で藤木に言ったのはご馳走してくれたからだ。
この前の大衆食堂は新藤さんの素敵な婚約者さんが払っていてくれたし、今日は藤木から誘ったからだと言われれば大人しく引き下がるべきかと思ったのもある。
藤木のくれたもみじまんじゅうの入ったお土産の袋がガサガサと鳴った。
もう季節は11月で、最初に会ったときには暑さが残っていたのに今では寒さが厳しくなっていく季節だ。
「酔っ払ってる?」
お店の前で私の顔を覗き込んでくる藤木の目から、自分の目を逸らした。
バカなことを言ってるときには平気なのに、まっすぐに見られると恥ずかしい。
「酔っ払うほど飲んでなくても酔っ払うこともあるなら、多分、酔っ払ってる。」
「ふっ、僕も。お互いに、酔っ払って車に轢かれないように注意しないとね。」
藤木の温かな手が私の右手を握りしめて、手だけでなく心まで温かい気持ちになった。
「太閤通りの横断歩道と言えばベスのジョイナーだよなぁ。ここを仕事で通るたびに笑いそうになる。」
もうすぐ、ジョイナーをやった現場の横断歩道だ。
ここを通るたびに思い出してくれてることが嬉しいべ。
たとえ、酔っ払ってやってしまったジョイナーだったとしても。
「今日は、友情ゴールだな。手も繋いでるし。」
繋がれた手を振って言ったら
「友情ゴールって何?」
と、聞き返された。
「二人でゴールテープを切るってこと。マラソン大会の最後にさ、デットヒートを繰り広げた二人が仲良くゴールする図みたいな感じ。」
「へー。」
酔っ払ってないけど、酔っ払ってる高揚感。
服から出てる部分は寒さを感じるけれども、心の中はぽかぽかと温かく、隣を歩く藤木から発せられる見えないオーラが私を包み込んでる気がする。
「本気で私が走っても藤木に追いつかれるよね。そんで友情ゴールだな。」
手を離して信号機が赤から青に変わった瞬間にスタートダッシュ。
一拍遅れて藤木が走り出した気配を感じた。
前からやってくる通行人を避けて横断歩道を突き抜ける。
私の隣に追いついた藤木が私の右手をとらえて、横断歩道を渡りきったところで繋がった手を二人で突き上げた。
「感動の友情ゴーーーーーーーール!!!」
私が叫んだら藤木がゲラゲラ笑った声が夜の名古屋に響いた。
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