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「ほら、あそこがカフェだよ。」
藤木の目線を辿ると住宅街の中に違和感なく溶け込むカフェが出現した。
普通の住宅みたいな外観。
小さく外に出された看板と4台ほどが駐車できる駐車場。
窓際の席の様子からそこがカフェだと言われれば、カフェにしか見えないそんなお店。
お店の看板を見たら
カフェ ユーフラテス
と書いてあった。
ユーフラテスって、チグリス川とユーフラテス川のユーフラテスだろうか。
昔、学校の社会で習った気がするべ。
メソポタミア文明が発達したのはチグリス川とユーフラテス川のほとりだとかなんとか。
「姉妹店があるとしたら、名前は何でしょう。」
ふふふっと笑った藤木の顔を見て思った通りに答えた。
「チグリス。」
「だよねー、僕もそう思う。それなのに、ユーフラテス2号にするとかってさ。あはは。」
笑いながらカフェの扉を開けたら、少しギィっと音がした。
店内には小さめの音でクラシックが流れてるようだけれども、音楽に造詣が深いわけではないからこれがショパンだと言われたらショパンな気がするしベートーベンだと言われたらベートーベンな気がするべ。
「浩ちゃん、いらっしゃい。えーっ、ちょっと、ちょっと、ちょっと、ちょっと。彼女?」
最後の彼女の部分だけ声のトーンを落として聞いてるみたいだけど、全部筒抜け。
それに、ちょっとの数が多いべ。
カウンターの中で藤木に声をかけたのは、50代から60代くらいの熟女だ。
真っ赤な口紅にパープルのアイシャドウ。
太目のアイラインで、髪型は明るいブラウンのショートヘア。
ニコニコ笑って藤木にカウンターをすすめてる。
藤木がこっちを向いてカウンターでもいいかなって顔をするからいいよと顔で答えたつもり。
繋いだ手を離すことなくカウンターの席まで誘導してくれた。
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