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山田さんにトミーと言われるようになってから、毎日、定時あがりが癖になった。
山田さんと小鳥遊さんと一緒にニヤリと笑って
『お先に失礼します』
が言いたいがためなんだけどさ。
別に一緒に言わなくてもいいんだけど、イタズラしてるような気持ちになるところが気持ち良いべ。
きっと、脳内からアドレナリンが出てるんだと思う。
その瞬間が楽しくて、どうやってでも定時までに仕事と後片付けを終わらせようって思って刺激をもらってる。
この前までの自分は何だったんだと思うべ。
いや、この前までの自分だって、山田さんと小鳥遊さんがあがるのを見たら帰っていたんだからそんなに変化はないんだけど。
心の張り合いが違う。
そうだ、きっと心の中の張りが違うんだべ。
会社を出ると、寒い。
吐く息も白いし、早いところ駅まで向かわねばと思う。
今日は水曜日で、週末まであと半分だ。
折り返し地点。
ふと見たら改札付近に藤木の姿。
連絡くれればいいのに。
いや、でも、連絡もなしで会えるところがいいのか。
胸がキュっとなったべ。
「お疲れ。」
近付く私にすぐに気が付いて軽く手を挙げて微笑む藤木。
一日の仕事を終えて疲れた感じのはずなのに、疲れを感じさせない微笑み。
ドキドキした。
スーツマジックで2割増で恰好良く見える。
藤木は私服もそれなりに恰好良かったけど、スーツはまた別物。
しかも、恋人となるとやっぱり違うわけでさ。
「お疲れ様。」
なんか照れる。
本当は大声で叫びたい。
この人、私の彼氏ですって、人でごった返す名古屋駅で叫んでやりたい。
さすがに素面ではできない。
そして、走りたい。
地下街を全力疾走したいくらいに走りたい。
でも、やっぱりできないなと思う。
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