紅葉狩り

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平たい大きな石のところで立ち停まった藤木がこっちを向いて口を開けた。 「ここでいいかな?」 いや、それを聞いてる時点でここって決まってるじゃん。 「うん。」 頷けば、いつものようにふわっと笑ってデイバッグを肩からおろしてその中身を広げだす。 嬉しそうな顔をして、石に腰かけて隣に座るように私を促してくれる。 すべての動きがスマートだ。 水筒とタッパーが二つ。 そのタッパーの大きい方を渡された。 「エリーはたくさん食べるもんね?」 違う。 たくさん食べさせてるのはいつもいつも藤木だべ。 「そんなに食べられないってば。そっちと交換しようよ。」 目線を藤木が持つひと回り小さめなタッパーにうつしたらクスッと笑った声が聞こえた。 「今日は、新しいおにぎりのカタチに挑戦したよ。」 ニコニコ笑う藤木とその言葉。 新しいおにぎりのカタチ。 それは、三角でも俵型でもないおにぎりって意味だろうか。 ちょっとのワクワクを胸に抱いて、そうっとタッパーの蓋を開けた。 おにぎりって聞いたはずなのに、いや、きっとこれはおにぎりだべ。 目にも鮮やかな黄色に包まれた丸。 薄焼き卵に包まれたおにぎりだな。 ・・・そんなにタマゴが好きなのか? そして、その隣には海苔に包まれたおにぎりがいらっしゃる。 こちらは、普通なのだろうか。 それとも、変わったおにぎりなのだろうか。 「コージー、このおにぎりの具って何?」 「へへへー。」 笑った顔が可愛いべ。 でっ、具は何だべ。 「茹でタマゴ♪」 ウホッ。 まさかの茹でタマゴおにぎり。 食べたことないべ。 「僕も初めて作ったから味の保証はないけど、タマゴだから美味しいに決まってるよね。」 ちょっとだけ、その爽やかな口調と声色、耳に届く心地よい響きに頷きそうになったけど、違うべ。 間違ってる気がするけど、ニコニコしてる藤木の顔だけは間違ってない。 うん、大人しく食べよう。 タマゴスペシャルなおにぎり。
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