愛しい時間

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毎日が単調に終わっていった数カ月前までの自分とは違って、定時に山田さんと小鳥遊さんと一緒に立ち上がるようになってから仕事に対しての心意気も変わってきた。 「トミー、この前の資料、グラフが見やすくて良かったよ。またお願いねー。」 軽い調子で私に話しかけてくるようになった山田さんに笑いながら頷き、心の中でガッツポーズだべ。 お褒めの言葉を貰うようなことが過去になかったわけではない。 でも、自分でも頑張ってると思ってるそのホットなときにピンポイントで褒められたことが純粋に嬉しかった。 少しずつ、変わっていく日常。 どこから変化したのか考えてみたら、藤木と出会ったことだと思う。 藤木の会社が大きいからかもしれないし、藤木の育ちの良さを一緒にいると実感する瞬間があるからかもしれない。 同じように下品なことを言ったり、やったりして一緒に笑いながらも、少しずつ藤木の隣にいてもおかしくない人になりたいという思いが育っている。 「「「お疲れ様でした、お先に失礼します!」」」 時間ぴったりに退社ができるこの職場を有難いと思ったこと、実はあまりなかったけれども、すごく恵まれた会社にいることを感謝するようになった。 「あー、早く帰らないとなぁ。」 毎日、定時で帰宅する山田さんの言葉に笑ってしまった。 「何だよ、トミー。」 「毎日、早く帰ってるじゃないですか。」 「そうだけど、気持ちの問題なんだよ。チビが熱出してて、多分、今日は奈央って嫁さんだけど、嫁さんが大変だっただろうなって思うと早く帰らないとなって思うんだよ。」 山田さんのマイホームパパぶりも、この会社だからこそだ。 「僕、山田さんみたいな男の人だったら結婚したいですね。」 「やだし、俺は小鳥遊みたいな幸せボケした嫁はいらねー。」 軽口をたたき合いながら、いつもの場所で二人と別れて着替えに向かう。 最近、本当にいい感じだべ。 日常生活がいい感じで、充実感を感じるべ。
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