愛しい時間

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「ウソツキは泥棒の始まりだけど、そんな可愛いウソなら僕は許しちゃうなぁ。」 ホームの壁まで移動して、そこに二人で並んで立った。 さっきのヒールが折れたの私の言葉だね。 バッグを持っていない方の手を藤木の手が触れて、そのまま手を繋いだ。 悪いことはしてないべ。 だけど、ドキドキした。 「コージーも可愛いウソならついてもいいよ。きっと私も許すから。」 「エリーのワキが臭わないよとか?」 ニッコリ笑って言ってきたべ。 ウソだと分かるから笑った。 「そうそう、薔薇の香りが漂ってるとかね。」 「ぶはっ。薔薇の香り。」 笑って揺れる藤木の体。 伝わる振動。 すべてが、愛しい。 「次の電車には乗ろうね。」 藤木の言葉と気持ちは、分かる。 そして、藤木が私の気持ちを分かっていることも分かる。 「可愛いウソならついていいんでしょ。乗りたくない。」 「ウソになってないよ。でも、ダメ。」 残念だと思う気持ちと、藤木の揺るがないらしい一本、芯が通った気持ち。 「一緒に帰るだけじゃなくて、ご飯の約束もしておけばよかった。」 「ふふふっ。また今度ね。エリーのご両親に、彼氏とばかり遊び歩いてまったくもうって思われたくないからさ。」 「一人暮らしをしたら、好き放題できるね。」 「・・・ダメ。今、一人暮らしを始めるのはもったいないからイロイロだめ。」 今じゃなければいいってことだべか? いつならいいんだろう。 とんちみたいな言葉だなと思っていたら、乗るべき電車が来てしまった。
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