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「ほら、乗ろうよ。」
繋いだ手に力を込められ、軽く引っ張られるようにして一緒に乗り込んだ急行電車は人の多さもさることながらしっかりと暖房が効いていて、むわっとした空気が充満していた。
冷えた体と顔に、暖房の暖かさ。
なんとも言えない奇妙な感覚になって、やっと体と顔が温まる頃には藤木とサヨナラだなと思う。
入り口付近の壁際。
前もこの辺りに二人で立ったことがあったべ。
吊り革に捕まりたくない私への気遣いかな。
扉が閉まって、動き出した電車。
その揺れに合わせるように、藤木の顔が私の顔の横に移動してきた。
「薔薇の香りがする」
耳元で囁いて、体を元の場所に戻した藤木に笑ってしまったけれども軽く睨んでおいた。
可愛いウソならついてもいいよって言ったけどさ。
私を見下ろして、くすくす笑う顔を見ていると睨んでも効果なしだなと思う。
悔しいから、私も藤木の腕を触って軽くひっぱったらどうしたのって顔をして軽く顔を下げてくれたべ。
藤木の耳元で
「ブラが透けてる」
と囁いてやったら、
「ぶはっ。」
っと盛大に噴き出した。
スーツにコートまで着てるのに、透けるわけがないからね。
それから、無声音で藤木の口元が動いて
「おバカさん」
と言うから、私も同じように無声音で口元を動かして
「何色?」
と聞いてみた。
藤木の手が私の肩をポンっと叩いて、笑ってる。
ちょっと近所のオバサンっぽいリアクションにウケて、同じように私も藤木の肩をポンっと叩いて笑った。
そこそこ満員電車の中で、仲良くしてる自覚がある。
本当はここで叫びたい。
大きな声で叫びたい。
フォーーーーーーーー!!!!!
と、叫んで自慢したい。
私の彼氏は、この人ですと大声で叫びたい。
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