愛しい時間

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「そうだ、クリスマスイブかクリスマスだったらどっちがいい?イブだと木曜日だしクリスマスなら金曜日だよ。」 笑いをおさめた藤木の真顔。 確かに、今月の一大イベントだべ。 が、しかし、社会人たるもの平日の夜に遊び歩いて記憶をなくして次の日の朝にバタバタするなんて失態はしたくないべ。 私なら、いかにもやらかしそうだし。 「金曜日の方がいいでしょ?そんなことない?」 私に選べるように聞いてきてくれたけれども、過去に藤木と会社帰りに会ったことがあるのはノー残業デーの水曜日と金曜の夜だけだ。 「そんなことあるけど、エリーがイブがいいならイブに会うよ。仕事はなんとでもできるから・・・多分。」 最後の微妙な間の後の多分の言葉に笑った。 扉が開くたびに、外から冷たい空気が入ってくる。 寒い寒い。 「金曜日の方がいいかな。次の日のことを考えなくていいから。」 「じゃぁ、行きたいところがあるから付き合ってね。」 藤木の行きたいところってどこだべ。 「ラブホ?」 ついつい聞いたら、笑いながら頭をパコンと軽く叩かれた。 「大勢の人のいる電車の中でそういうことを言うのはおやめないさい。言うならもっと小さい声で言って。」 小さい声ならいいんだべかっ。 ニヤニヤしながら無声音で 「ラブホ?ラブホ?」 と連呼して聞いてみたけど、笑って首を振るばかりで行きたい場所については教えてくれないまま、私の最寄駅に着いてしまった。 「気を付けて帰るんだよ。」 「もちろん、そっちもね。」 電車を出て、ホームに向かう人にはいい迷惑だと重々承知してるけれども、その場で藤木の乗った急行電車が走り去っていくのを見送った。 クリスマスに殿方と約束があるなんて何年ぶりだべっ。 顔も手も表面はすべてが冷たいのに、心の中はホットだべっ。 改札を抜けて、マイケッタマシーンに跨って、全速力でペダルを漕いだ。 「フォーーーーーーーーーーー!!!!!」 住宅街に私の奇声が響いたって知らねーべっ。 「たーまやーーーーーー!!!!」
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