交響曲第9番

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「18時30分開場で19時公演開始なんだよね。夕飯、どうする?」 しばらく景色を眺めていたら聞かれて即答だべっ。 「コージリアン3世を食べる。」 「ぶっ、どこもかしこも間違ってるよ。」 楽しそうに返事をくれる藤木の声だけは、間違ってないよ。 「いっぱい食べたら眠たくなるし、食べなかったらお腹が鳴るから。コージリアン3世を食べる。」 良いこと、言ったべ。 バッチリだべ。 「エリーはデザートだから、第9を聴いて帰ってきてからね。夕飯は、軽くか。よし、海苔巻きならぬタマゴ巻きを作ろう。」 「それ、香嵐渓で食べたタマゴのおにぎり?」 一瞬の間の後。 「アレは、おにぎり。今夜はタマゴ巻き。」 どうやら違うらしいけれども、多くは聞かないでおこう。 それに、藤木の作ってくれるものはいつも美味しいから間違いはない。 あれだ、愛情と言う名の調味料がたっぷりとふりかかってる。 藤木のお宅の居間。 帰って来てすぐにエアコンをつけてくれた藤木は私の方をチラチラ見た後で、目を逸らした。 なんだべ? 「何?」 「いや、ほら、コート。まだ寒いかな?脱がないかなってさ。」 一応、いつもと違う装いでやってきたし、コートの下が見たいってか。 嬉しいべ。 「全部脱いであげようか?」 「ぶっ。」 「全裸よりも半裸希望だっけ。コージーは下着が好きだもんね。ふはっ。」 からかうと、顔が赤くなるような気がして、からかってみた。 むっとした顔をするけど、可愛いべ。 大人可愛いアンゴラコートを脱いで、ハンガーにかけて、そのまま鴨居のフックにひっかける。 いつの間にやら、こんなものが。 最初にここに来たときにはなかったから、私のために鴨居にフックを取りつけてくれたんだべ。 「コージー。ありがと。」 安くはなかったけれども、何年も着てるコートだ。 コートを乱雑に扱っても痛くもかゆくもない。 だけど、こんな気遣いを見せてくれると、ムギュムギュする。
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