交響曲第9番

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流れる映像で楽器の名前を教えてもらって遊んでいたら、知ってる曲だべっ。 「これ、あれじゃん、聞いたことあるよ、これ。」 画面を指差して、後ろの藤木を振り返る私に笑い返す藤木。 「ふふっ、そうだよ、有名な曲だよ。」 柔らかな微笑み。 見とれていたら、歌声が聴こえてきたべ。 藤木の唇にキスをお見舞いして、大好きな吸引は諦めて画面に視線を戻す。 何語だか分からないけれども、ソロで歌う人がいて、その他大勢の合唱隊が後ろにいるべ。 全員で歌ってる時の様子は、圧巻だべ。 人の声って、立派な楽器になるんだなと思った。 凄いべ。 楽器が音楽を奏でるパートの一つなのは、分かるべ。 それに、歌ってのは、歌じゃん。 いや、でも、歌声は楽器みたいなもんなんだな。 最初は、藤木に話しかけて聴いていたけど、映像に夢中になったべ。 普段の私だったら、指揮者のオジサンの動きが面白くて笑ったり、合唱隊の中の人の顔をくまなく見て有名人のそっくりさんを探したりしそうなところだけど、どういうわけだか映像にどっぷりと浸かった。 気が付けば、最後まで夢中で見てしまった。 低音の楽器、高音の楽器、男性の声、女性の声。 私の少ない語彙では伝えられない音の広がりや重なりに感動だ。 「これ、見に行くんだよねっ!」 見終わってほっと一息ついた後に振り返って藤木に確認。 「そう。ふふっ。楽しみなの?」 「うん、楽しみになった。寝てたら起こしてケロ。」 「ぶはっ。寝るんだ。」 体を揺らして笑う藤木に前を向いてもたれ掛った。 そしたら、藤木がまたマウスをクリックして、私が知らない音楽が流れる。 藤木にもたれ掛って、今まで聴こうと思ったことなんてない種類の音楽に耳を傾けた。 幸せな午後だ。 背中には藤木の温もり、部屋には音の重なりだべ。 そして、目を瞑って一寝入り。 最高の贅沢だ。
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