交響曲第9番

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バスなんて普段、乗らないし人がたくさん乗ってるっていうイメージでもなかったべ。 だけど、意外にもバスの中はそれなりの人でビビった。 「ほら、足元、気を付けて。」 足元、気を付けないといけないぐらい危なっかしくないし。 そう思ったんだけど、普段と違う恰好で足元だってヒールだったべ。 そこを見て、言ったんだとしたら優しさだ。 そして、いつもと同じスニーカーでも藤木は足元、気を付けてと言いそうだ。 それは、過保護だ。 空いてる席はなかったべ。 藤木に手を取られて、座席の横にくっついてる半円形のでっぱりの持ち手に手を置かれた。 ですね、吊り革よりもこっちの方が安定してそうだしね。 何食わぬ顔をして、私の手の上に片手を置いて、もう片方の手で吊り革を掴まってる藤木にちょっとドキドキだ。 バスが停車する度に、わざと藤木に体を寄せる。 気が付いた藤木がふっと笑って、バスが動き出す反動で体を寄せてくる。 何回も何回もバスが揺れる度に、私も藤木もお互いの体に程よく体を寄せてクスクスと笑い合った。 傍から見たらバカップルだって自覚してるべ。 だけど、藤木浩二という人が私の悪乗りをたしなめることなく、人に迷惑をかけない程度に一緒に楽しんでくれるから余計に楽しくなってやってしまうべ。 「次、降りるよ。」 「お金、いくら?」 「いいよ、僕、小銭あるし。」 降りるバス停で停車したから藤木の後に続いて降りる。 このバスは、私や藤木が愛用する赤電車と同じ系列のバスだから、運転士さんの制服も同じだべ。 昔は濃い緑色の制服だったのに、今はダークネイビーだ。 バスの中は暖房がたっぷりだったけれども、外に出たら寒風吹きすさぶ感じだ。 空気が冷たい。 私は、髪の毛で耳が隠れてるからまだましだけど、藤木の耳はきっと冷たいべ。
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