交響曲第9番

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藤木が、睡魔との戦いを放棄して完全に頭を項垂れ眠りだした。 面白かったべ。 多分、今年のMVPにできるくらいの変顔だったべ。 いや、初めて会ったときの藤木のアフロ頭と2回目に会ったときの成長した藤木アフロ頭もかなり面白かったな。 どっちみち、今年のMVPは藤木浩二で決まりだべっ。 生演奏を聴きながら、今年を振り返るのも悪くないべ。 上半期は、遠い昔過ぎて思い出せないけれども、下半期は確実に楽しかった。 思いつきで合コンしようと会社の女の子ちゃんから逃げた新藤さんの幼馴染さんに感謝だべ。 名前・・・ええと・・・そうだ、山岸さんだべ。 山岸さん、恰好良かったなぁ。 彼女の一人や二人、できたかな。 二人もできたら問題だべ。 一人で十分。 おぉっ。合唱隊の皆さんが起立した。 こ、こ、これは、第4楽章が始まるべ。 肘鉄して藤木を起こした。 ビクっとして、ガバっと頭を勢いよく上げて、目を開けてキョロキョロ首を振った姿に吹きだしそうになった。 「あっ、ありがと。」 無声音で口パクの会話。 「イビキかいてたよ。」 「ウソ!?」 「うん、ウソ。」 笑ってしまうくらいに素直な反応をして、ムッと唇を尖らせた藤木にまた笑った。 「いただき。」 ムッとして尖った藤木の唇に自分の右手を添えて柔らかな唇の感触を確認して、その手を舐めてやったべ。 目を大きく見開いて驚いてる。 その顔が可愛くて、また笑った。 もちろん、全部、静かに静かに執り行ったべ。 私の右手を藤木の左手が握って、そのまま座席と座席の間に置いた。 誰も見てないことをいいことに、バカップルしてるべ。 藤木と微笑み合って、藤木の家で予習した第9の演奏に聴き入った。
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