交響曲第9番

26/34
前へ
/539ページ
次へ
千恵さんがどこにいるのか、さっぱり見つけられない。 オーケストラの後ろで座って待機していたときは、指揮者やオーケストラの人や楽器に隠れて見えないだけだと自分に言い聞かせて探してもいなかったけれども。 全員、起立で待機してる今も、見つけられないべ。 藤木の左手と私の右手。 繋がった手をギュッと握って、クイクイと合図したらこっちを見たべ。 もちろん、無声音で聞いたべ。 「千恵さん、どこ?」 私の言わんとすることがすぐに分かったみたいで、私の方に体ごと顔を寄せて耳元で本当に小さな囁き声で教えてくれた。 「右端の後ろの方にいる。」 藤木の声が耳元の空気を振動させて、その振動が私の耳にダイレクトに届いた。 ちょっとくすぐったいべ。 藤木の言葉の通りに右端の後ろの方を目を凝らして見たら、それらしい人を発見した。 知り合いを見つけるのも一苦労だべ。 みんな真っ白なブラウスに黒のボトムスだ。 男性は黒のタキシード仮面だべ。 そして、全員、日本人ときたもんだ。 千恵さんのいる場所をきちんと把握していた藤木、なかなかやるなぁ。 昼間の予習を思い出す。 千恵さんの活躍はもうちょっと先だったべ。 けっこうな時間、演奏を聴いた後に、ソロで歌う人が歌って合唱の皆様の出番はもっと後だったような。 ソロの人が歌ってるべ。 手に汗握るべ。 思わず、藤木と繋いだ手をギュっとしたら、隣の藤木がふわっと笑った気配がした。 不思議だ。 楽しみで楽しみで仕方がなかったわけじゃない。 なんとなく、仕方なく、来たに近い気持ちだったのに、しっかりと楽しんでるべ。 キタ!!! 昼間に動画で確認したときも思ったけど、実物は迫力だ。 そして、藤木に確認するのを忘れたことがある。 一体全体、何語だべ? ベートーベン様が作った歌なら、ベートーベン様は何人だべ? 後から確認しよう。
/539ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3464人が本棚に入れています
本棚に追加