交響曲第9番

27/34
前へ
/539ページ
次へ
演奏が終わって、指揮者が演奏者に合図をして全員起立。 大きな拍手が沸き起こる。 もちろん、私も拍手をした。 できることなら、席から立ち上がり 「ブラボーーーーー!!!」 と、叫びたいと思ったべ。 でも、ここは日本だし、そんな雰囲気でもないからやめておいた。 心の中に響いた感動を表す言葉が見つけられない。 こんなとき、ポエマーだったら自分の心情を表すぴったりの言葉を知ってるんだろうなと思ったべ。 演奏者の皆さんが退場して、会場の明かりが灯る。 ぼんやりと橙色の明かりで照らされるお隣の藤木を見たらこっちを向いて笑ってた。 ざわざわとした喧噪。 あぁ、終わったんだなと実感する。 もう、普通に話しても大丈夫だべ。 「寝ちゃった、はははっ。」 きついくせ毛の髪の毛に手をやってポリポリと音がしそうな感じでわざとらしく頭を掻いてるべ。 「今年、一番面白い顔だったよ。眠気と戦っておかしな顔になって白目になって口元は開いてるしさ、あははっ。あのね、こんな顔っ!!!」 藤木がどんなにひどい顔だったかを再現してあげたら、 「ぶはっ。ひどい顔。って言うか、やめなよ、その顔。おバカさんにしか見えないよ。ふふっ。」 ひどい顔して寝ていたのは藤木なのに、まるで自分とは無関係みたいに楽しそうに笑ってる。 周りの人達が立ち上がって、会場の外に向かってる。 その流れの中に、我々もついていこうと二人で立ち上がって通路に向かっていたら藤木が足を止めた。 いきなりだったから、ゴツンと藤木の背中に私の顔が激突したべ。 そして、慣れないヒールのパンプスでふらついた体を支えようとして、ゴンっと座席にぶつかり、ふらついたまま手を座席についておかしな恰好になった。 もちろん、その間、情けない声を発していたべ。 「わっ、うひゃっががががが。」 多分、こんな感じ。
/539ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3464人が本棚に入れています
本棚に追加