交響曲第9番

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「彼女だよ。富田絵里さん。」 また振り返った藤木が体を半分横にして私の方を向いた。 壁になっていた藤木が横を向いたおかげで、私からもそして藤木の親からも見えてるべっ。 社会人の常識発動だべ。 挨拶は先手必勝。 「初めまして、富田絵里と言います。富岡製紙工場の富に田んぼの田で富田です!!!」 「ぶはっ。エリー、普通はそっちは分かるから名前の漢字を説明するってば。くくくっ。」 し、しまったべ。 ついついテンパっておかしなことを言ってまった。 「あっ、ははは。絵は・・・お絵描きの絵に北里柴三郎の里です!!!」 「ふはっ、分かりにくいってば。」 体を揺らしていつものように笑う藤木と苦笑いの藤木の親。 そしてテンパっておかしなことを言いまくる私だ。 通路で止まってしまった藤木の親が人の流れの妨げになってしまっていることもあって 「外、出たところで待ってるから。」 と藤木のマミーがおっしゃって先に二人は出て行った。 その後ろ姿を見ながら、ふぅっと息を吐いた私の手を藤木が握った。 「絵里、ありがと。」 「はははっ、失敗したかな。」 「ん?いいんんじゃない。きっと、面白い子だと思われたし、間違ってないしね。」 微笑む藤木を見ながら、ホールから出たらどんな会話をするのだろうとちょっと心配だ。
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