交響曲第9番

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人の流れが途切れたところで、通路に出てホールの後ろのドアから出た。 まだ、たくさんの人がいてざわざわしてる。 その人の流れに沿って歩いていたら少し広くなったロビーのところに藤木の親がいた。 「浩二、こっちこっち。」 にこやかな笑顔でこっちに手をふる藤木のマミーと、居心地が悪そうな顔の気がする藤木のパピー。 藤木の顔は、まさしくパピーと同じような居心地の悪そうな顔だべ。 幸いなことに、ロビーのソファーは全席埋まってるし、人もたくさんいるから少し立ち話でもしたら帰れそうな感じだ。 「あっ、今更だけど、父さんと母さん。」 そっけない藤木の言葉で二人を紹介してもらった。 「千恵さんの言ってた浩二の彼女なのねー。まさかこんなところで会えるなんて思ってもみなかったわっ。」 一人、はしゃぐマミーは嬉しそうだべ。 年末には顔を見せに行くとは言っていたけれども、疎遠だったに違いない。 藤木のブラが原因で。 「浩二、今年は年末年始に帰ってくるのか?」 お父さんのぎこちない質問。 微妙な空気だ。 できることなら、さっさと帰りたいべ。 そうっと、席を外そうかと思ったら藤木に腕を掴まれた。 「帰っていいならね。」 「帰ってらっしゃいよー。もう、お父さんも意地っ張りなんだから。浩二がいなくて淋しいのよー。そうだ、絵里さんも一緒に遊びにいらっしゃいよっ。ねっ、いいでしょ。」 強引にマイウェイな感じだけど、明るいマミーだべ。 最後のねっ、いいでしょはパピーに聞いたんだと判断したべ。 パピーが居心地悪そうに頷いてるべ。 家族のいざこざに巻き込まないで欲しい。 その藤木に帰ってこいと言ってるってことは、藤木のブラは諦めたというか許したんだべか? そういうことだべ?
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