交響曲第9番

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そこそこ混んでるバスで、藤木に先導される形で私と藤木は並んで立った。 来たときと同じように。 そして、すぐ近くに藤木のご両親が立ってる。 来たときと同じようにバスの揺れに合わせて体を寄せて遊ぶなんてことができるわけもなく、大人しく立っていたら藤木が私の耳元に顔を寄せてきた。 「プロテインよりもタマゴを食べてる僕の方がイイ体じゃない?」 「ぶはっ。」 神妙な気持ちで、藤木が何を私に伝えようとしているのかと思って耳を澄ませていたのに、藤木の言葉に吹いてしまったべ。 そして、そんな風に言われると気になってしまう。 プロテイン親父と酵素マミー。 近くに立ってることが分かっているから、チラリと盗み見てみた。 藤木を見上げて、首を振って無声音で伝える。 「わかんない。」 コートを着てるのもあって、どっちがイイ体かなんて判定不能だべ。 そして、もう一つ言うなら、親子なだけあって似たり寄ったりなんじゃないかと思ったべ。 また、私の耳元で囁き声で話してくる。 「今夜、タマゴの威力を発揮してあげる。」 こらこらこらこら。 若干、ピンクがかったような言葉を公共交通機関であるバスの中で言うなよと思う気持ちだべ。 それくらいの常識、私にだってある。 だけど、常識を凌駕するほどの好奇心だって持ち合わせてるべ。 藤木の顔を見つめて 「あのね」 と、小声で言ったら顔を寄せてきた。 その耳元に小さな声で話しかけたべ。 「セクシーなの、着てね。」 ピクリとした藤木の様子に、頬が緩んだ。 可愛いべ。 それから、可愛く口を尖らせてまた私の耳元で囁いてくる。 「そっちこそ。」 「くすぐったい。」 藤木の息が耳の中に入ってきて、くすぐったくて逃げたらわざとらしく笑ってる。 わざと、勢いよく耳の中に息がかかるように言ったんだ。 藤木のくせに生意気だべ。
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