交響曲第9番

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降車駅につくまで、そんなくだらないことを続けていて、バスから降りて思い出した。 藤木のご両親がいる前で、ついつい、いつものノリで藤木と遊んでいたべっ!!! 「絵里さん、浩二のこと、よろしくね。」 ニコニコ笑う藤木のマミーにぎこちない笑顔を返しておいた。 私と藤木の姿は二人にどう映ったのか。 幸いなことに、バス停からは向かう方向が違ってすぐに別れることに成功した。 「どう思われてたかな、二人に。」 私のコートのポケットに私と繋いだ手を突っ込んでくる藤木に聞いてみた。 「ん?仲良くしてるんだなって思ったんじゃない?」 ご機嫌な声だべ。 「そうかな。」 「そうだよ。ねぇ、年末に実家についてきてくれる?」 「えっ、あれは社交辞令ってやつだってば。」 「いいじゃん。絵里がいてくれた方が堂々としていられそう。」 強く握られた手が少し痛い。 だけど、藤木の心の方がもっと痛いのかも。 「距離の取り方が分からなくなっちゃったんだよね。」 「親子なのに?」 「だよね、親子なのにね。」 ゆっくりと夜道を歩く。 街灯と街灯の間の道は暗くて不気味。 白い街灯の明かりが灯ってる部分だけが浮かび上がってる。 いつもは、走ってるからゆっくりと夜道なんて歩かない。 初めて見る風景ってわけでもないのに、初めて見る風景みたい。 「アイス、買って帰ろうよ。バス代だしてくれたし、お礼に買わせてよ。高くて美味しいの。」 「ふふっ、肉まんじゃなくていいの?」 「まん類は、コージーが作ったのが美味しいからね。」 藤木が笑って振動が伝わる。 いいべ。
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