交響曲第9番

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コンビニの冷凍庫の前でどれもこれも美味しそうだなと迷っていたら、藤木が来た。 しかも、手にはアイス。 コーンのついたお安めアイス。 高級アイスを買おうって言ったのに。 「食べながら帰りたくなったからこれがいい。」 ニコニコしながら言われてしまうと、じゃぁ目の前の高級アイスはどうするんだべと思う。 「ふーん。で、こっちは?」 高級アイスを指差す私の手を握ってしまった。 「いらない。また今度ね。約束通りに買ってよ。」 分かるよ。 確かに、食べたくなったときに食べたいと思った物を食べるのが美味しいってさ。 まっ、いっか。 「私もそれ、買おうかな。」 人が食べるのを見ると食べたくなるし。 「寒いのにね。」 ほわっと笑った藤木に肩を竦めて同意を表した。 寒いのに、食べたくなったんだから仕方がないべ。 お金を払って、コンビニ前のゴミ箱に外側の包装を捨てて、二人で食べだした。 「つめたー!」 私が言えば笑いながら藤木が 「アイスだからね。」 と、言う。 そして、藤木が 「ヌ――--!」 と、目をギュッと閉じて冷たそうなリアクションをする。 顔も冷たいし、手も冷たいのに、体の中から冷やしてどうする。 「寒いから歩こう。」 「そうだね。」 私の提案に藤木が乗って、アイスを食べながら藤木の家に向かった。 冷たいと美味しいを連呼しながら、夢中で食べて歩いた。 顔もバッグを握る手も冷たいし、体の中から冷えてると思うのに、気持ちだけはポカポカしてるべ。 真冬にアイスを食べながら歩いてるなんてさ。 家についてからにすればいいものをと思うのに、そういうことができる相手が隣にいることが嬉しいべ。
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