チラリとポロリの美学

10/12
前へ
/539ページ
次へ
藤木が脱衣所からも消えた雰囲気を察知してから洗い場で安心して体をくまなく隅々まで洗った。 それからもう一度湯船の中にゆっくりと浸かる。 気持ちがいいべ。 温くなってしまったお風呂のお湯の中に浸かるのは、気持ちがいい。 自動で温度を調節してくれないし、追い炊き機能もない古典的な風呂。 お湯を捻ると熱湯が出てきて、適温を出そうとするなら水の方も捻って自分で調節しないとダメな水道。 もともと便利な機能がないところに住んでるんだから仕方がないし、それを承知でここに住んでるんだろうけど、そういうひと手間を加えながら住んでるんだなぁと思う。 そういうひと手間が嫌な人じゃないってことだべ。 もっと、便利な家だって住めるはずなのに。 新しくて機能的で広いところとかさ。 ゆっくりと温まって、脱衣所に出れば藤木が置いておくねと言った通りに私の荷物が置いてある。 優しいべ。 意地悪しようと思ったらいくらだってできるのに。 ちらりどころかポロリで見られるようにすることくらい、わけないのにそんな意地悪をしないのが藤木だ。 私が藤木の立場だったら、意地悪をして藤木が困った顔を見ておおいに笑うと思う。 人間性の違い、性格の違い。 違ってるからいいのかな。 同じところが多い方が一緒にいて、楽だったりすることもあるべ。 私は、藤木がどんなに私とかけ離れた人間だったとしても、藤木の人間性のおかげでいつも楽しくて楽をしてるけどさ。 藤木はそれでいいのか?
/539ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3464人が本棚に入れています
本棚に追加