走るよ 師走

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「こら、エリー、まっすぐに歩きな。」 腕を掴まれて、コート越しなんだけど藤木の手を感じてニヤニヤだ。 「わざとに決まってるじゃん。千鳥足の練習、はふっ。」 居酒屋 名古屋を出て良い気分でフラフラしていたら、掴まれた腕ごと引き寄せられた。 そして、そのまま腰を抱かれて地下街を歩く。 「僕も酔っ払い~。いつもはこんなことしないけど~。」 ふわふわっとした気持ちの浮遊感を藤木も感じているのか、確かにいつもの藤木なら絶対にしないような感じだべ。 「エロいな。中年不倫のアベックみたいだ、ふはははっ。」 私の笑い声が藤木の体に共鳴してる気がするべ。 近い近い近い。 いつもよりもずっと近い。 「酔っ払いついでにここでキスしちゃおっか?」 およそ藤木らしからぬ発言にまた笑った。 「ダメだって。だったら駅裏のラブホに行った方がいいって。」 「じゃ、次の休みまで我慢する。さっさと帰らないとね。」 腰を抱いて歩いていたはずの手が外され、いつもの通りに手を繋がれて歩くスタイルに変わった。 「ちぇっ。」 「ふっ、何?そんなに行きたかったの?ラブホ。」 頭上から降りてくる笑い混じりの声。 「大事なのはラブホじゃなくて、そこで致される行為です!」 「ふはっ、酔っ払い。」 酔っ払い認定されてるけど、そうだべ? せっかくラブホに行ったら普通、するべ? だってそれが目的だべ? 一緒にいられるだけで~とか二人きりになりたい~とか、そんなの温いべっ!!! 二人きりで密室にいたらやっぱりゴールまでひた走るべっ。 「フォーーーーーーーー!!!」 「酔っ払い、恥ずかしいからやめなさい。」 「ふぉーーーーい!アイアイサー。」 「ふはっ、アイアイサー。」 気分が良いべ。 酔っ払い万歳だべっ。 「どっちが」 藤木が言葉を発した瞬間にダッシュしたべ。 次の言葉が分かったから。 「こら、エリー、ずるいぞっ!!!」 ずるいと言われてもいいべ。 人が少なくなってる地下街を全力疾走。 「フォーーーーーーー!!!」 後ろから藤木の靴音。 目の前の改札。 通過してやるべと思ってバッグに片手を突っ込んだところで、掴まえられた。 「はぁっ、はぁっ。酔っ払ってないじゃん。」 笑う藤木に私も笑う。 「そっちもね。」 「チョー気持ちいぃっ、ふふふっ。」 「しかも、叫ばないんだっ、はははっ。」
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