走るよ 師走

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平面駐車場を仲良く歩いていたらグイッと引っ張られた。 「場所、かわろう。」 繋いだ手を離してポケットから出て行ってしまった。 そして、藤木が私と場所を入れ替えて反対側にまわって、またさっきと同じように手を繋いだ。 もちろん、手はポケットの中。 紳士ですな。 私は車が通らない方を歩いておきなさいってことですな。 そういうことを普通にやってのけるのか。 いや、こっちが普通? 数少ない男性経験を思い出そうとしても遠い昔のような気がして思い出せない。 そして、藤木のような優良物件ではなかったのだからこんな風な扱いを受けていなかった可能性もある。 付き合っていたときは、それなりに楽しかったけど・・・。 「赤信号 藤木と渡れば こわくない。」 「こら!」 「ウソだってば。」 見上げた藤木の顔が笑ってる。 そして、私もその顔を見て笑う。 12月の風は顔面を冷やしてくれるし鼻水が垂れそうだけど、隣の藤木は私の心を温める。 ついでに、手も。 そして、夜には体も。 ぐふふ。 「青信号 エリーと走れば 楽しいな。」 「走ってないじゃん。」 「いいじゃん。さっきのエリーの言葉と対にしてみたんだから。」 見上げた藤木の顔はやっぱり笑ってる。 そして、私も笑う。
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