走るよ 師走

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世界の車窓からならぬ刈谷の観覧車窓からの風景を楽しんだ後は、お待ちかねのえびせんべいだべっ。 「僕、そんなにお腹が空いてないよ。」 「大丈夫、大丈夫。見たら絶対に食べたくなるし、食べたら買いたくなるから。じゃなきゃ無料で試食し放題なんてないってば。」 想像するだけで萌えるシチュエーションだべ。 エリー、これ食べてみ?美味しいよ? どれどれ。本当だ、美味しい。 じゃ、買おうか。 こんな、いかにもカップルなやり取りをしたいっていう希望があるべ。 自動ドアから店内に。 すごい人だべ。 えびせんべい、大人気!!! 人だかりだけど、ひとまず近いところから見てまわる。 なるほど、ワゴンの中に山のようなせんべいの袋があって、その手前にトングと試食の箱があるべ。 試食をする人は、トングでせんべいを掴んで自分の手にのせてから食べろってことだべ。 これは、衛生上とかそういう理由だべか? それとも、潔癖症の人のためにか? 潔癖症なら他人が使ったトングなんて触れないか。 良かった、藤木が潔癖症でなくって。 藤木が潔癖症だったら、ワキもオシモもアルコール消毒しないとあんなこととかこんなこととかしてくれなかったかもしれないべ。 まぁ、藤木は臭っていても平気っていうか、臭ってる方が興奮する変態なところがあって、それはそれでちょっと恥ずかしいべ。 「わさびせんべいだって。こういうの、食べたことあるよね。」 と言いつつ、トングを握って、私の手の上と藤木の手の上に、藤木がせんべいをのせてくれたべ。 軽い歯触りでせんべいが砕ける。 ピリッとしたワサビの風味が大人味。 「まいう~。」 藤木の顔を見て小さい声で言ってみたら、ふわっと笑った。 「人目があるから、小さい声なわけ?普通に言えばいいじゃん。」 うっ。 すべて、お見通しだったようだべ。
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