3464人が本棚に入れています
本棚に追加
藤木が私の腕を掴んだまま連れて行った車両の真ん中辺りで、掴んだままの手を躊躇なく上に引っ張って吊り革に掴まらせた。
ワキが・・・。
「大丈夫だって。」
ふっと笑った顔に、やっぱりドキドキして目を逸らした。
これだけ、ワキが気になるのに、そこをあっけなく
大丈夫
そう言って笑うって、ずるいべ。
「山根君とイッシーが付き合ってるって聞いた?」
藤木の言葉に頷いて答えた。
「昨日、イッシーから聞いた。」
「山根君のコンプレックス、身長なんだよ。山根君の体臭はそれほど強くないけどさ、本人は3大コンプレックスとかって言っててな。」
身長・体臭。
もう一つは何だ?
「もう一つは何?」
「学歴。僕たちの会社にいる人ってけっこう高学歴の人が多くてさ。山根君は大卒だけど国公立卒でも難関私大卒でもないからさ。」
「学歴があっても仕事ができなきゃ意味がないと思うけどな。」
「そうだよ。山根君は普通に仕事してるし、本人が思うほどコンプレックスに思うようなものでもないよ。誰にだってコンプレックスってあるでしょ。」
まぁ、誰にでもコンプレックスの一つや二つはあるのかもしれない。
程度の差、こそあれ。
「イッシーも身長が高いの、コンプレックスだな。本人165センチって言い張ってるけどさ。」
「ぷっ、僕とそんなに変わらないのに165センチって言い張ってるのか。きっと170センチ近いな、じゃぁ。可愛いウソだなぁ。」
藤木が笑った。
可愛いウソだなぁって、イッシーいいなぁ、可愛いって言ってもらえて。
・・・おいっ。
赤い実がはじけたからって、その気になるなよ、ベス。
藤木が好きになってくれるかどうかなんて分からないし、たまにこうやって飲んで楽しんで、その関係のまま仲を深めていくのが得策だべ。
最初のコメントを投稿しよう!