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「そろそろ馬車が来るわ」
貸し馬車の蹄の音と車輪の音が近づいてくる。
ささやかな抵抗も虚しく、鏡の中には身仕度を終えた幸せそうなシンデレラの姿が映っていた。
「あの……お母様……こんなにしていただいては」
話が変わってしまいます。
シンデレラは言いたい言葉を飲み込んだ。
継母達に
「貴方達は脇役なのよ。
いじめっ子の役なのよ。」
等と言える訳がない。
継母達は役を演じている訳ではないのだから。
シンデレラが言葉を選んでいるうちに、貸し馬車は到着し、当たり前の様にシンデレラも乗せてお城へ走り出した。
「王子様、素敵な人だと良いわね」
「私と踊って下さるかしら?」
2人の継姉は舞踏会の事を想像して心を踊らせていた。
「私の娘達は皆可愛いですよ。
王子様が気に入って下さいますよ」
継母の言う「皆」にはシンデレラも含まれているのだろう。
本当なら
「私の方が可愛い!」
なんて言って姉妹で喧嘩する予定だったのに……
シンデレラは見つからない様にコッソリと溜め息をついた。
お城の中には、お妃候補志願者の女性がウジャウジャと立っていた。
本来のストーリーの様に、遅れて来て注目を集めなければ王子様に見つけてもらうことすらできなそうだ。
しかも、シンデレラのドレスは継姉からの借り物。
裕福でないシンデレラ達にとっては贅沢な一品でも、舞踏会の為にドレスを新調してきた貴族達から見れば粗末な身なりだった。
「壁の近くにある食べ物、好きに食べて良いみたいよ!」
「ブヒー!ラッキー!早く食べなくちゃ!
ほら、シンデレラも早く!」
継母達は舞踏会の目的も忘れて、フードコーナーにシンデレラを無理矢理連れて行った。
もちろん継母達の意地悪でなく、親切から出た行動だ。
「ほら、シンデレラも食べて!
ちゃんと食い溜めするのよ!」
周りのお妃候補志願者がクスクスと笑っていたが、継母達は気にせず、いや、気に止める事なく食べ続けていた。
やがてファンファーレが聞こえ、王子様が舞踏会の会場に現れた。
程よく日に焼けた肌、栗色の髪、切れ長の目に整った顔。
絵に書いた様な王子様だった。
王子様、素敵!さすが私の夫となる人だわ!
シンデレラは胸を高鳴らせて王子様を見詰めた。
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