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節子はそのグラスに手を伸ばして、ゆっくりと口を付けた。
その姿がコマ送りの様に月明かりに照らされている。
義秋はパソコンの電源を落としながら節子を見ていた。
「綺麗な月ね…」
ウイスキーを一口飲むと節子はそう言った。
「ああ…月は昔と何にも変わらないな…」
義秋もグラスを手に取ると脚を組んだ。
ちらついていた雪もすっかり止み、綺麗に晴れ渡った夜空だった。
その月が海の水面に映っている。
「ヨシア…」
節子もその水面を見つめている様だった。
「何だい」
義秋が浴衣姿の節子を見ると、節子もグラスをテーブルに置いて、しっかりと義秋を見据えた。
「私の事は気にせんで良かけん、真実ば書いて。ヨシアが書いたレポートでお父さんや神谷が追い込まれても、それは仕方の無か事。噂もかなり前から有るとよ。それも私の耳には入らん様に、みんなが気ば掛けてくれとるとやけど、それでん私には分かるとよ…」
節子は決意に満ちた目をしていた。
それが義秋にも痛い程に分かった。
「分かったよ…」
義秋はそれだけ言って頷いた。
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