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「ヨシアの足手纏いにだけはなりとう無か…。あの夏もそう思った…。ほら、高三の夏、別れた夏」
節子はテーブルに置いたグラスを再び手に取った。
「ヨシアが関西に行くの迷っとった。私のせいで…。だけん、別れようと思ったと。それでヨシアが、ここに残るって言うっちゃ無かろうかと思って…」
義秋は眉間に皺を寄せながら、節子の言葉を聞いていた。
義秋の胸の中でずっと疑問だった。
涙で別れたくないから、少し早めに別れよう。
あの日、節子が突然そう言い出した。
問い詰めた義秋に節子は髪を振り乱して、
「どうせ別れな、いかんっちゃけん。今別れても同じやろ。私も早う次の恋愛ばしたかけん、別れて」
そう吐き捨てる様に言われた。
それを今でも鮮明に覚えていた。
義秋は俯いて力無く微笑んだ。
「そうだったのか…」
義秋は立ち上がり節子の傍に立った。
「お前はいつでも、俺の事を考えてくれているんだな…」
節子の頬を自分の身体に引き寄せた。
「ずっと…」
節子の消えそうな声が身体を伝って響く。
「ずっと、ヨシアの事、好きやったけん…」
「節子…」
節子はヨシアの身体に顔を埋める。
「ずっと、ずっと…。ヨシアの事、好きやけん…」
節子は泣いていた。
その涙は義秋の身体に吸い込まれる様だった。
そして身体に沁み込んだ節子の涙は義秋の中で、熱く燃え始めた。
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