第五章 真実

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「ヨシアの足手纏いにだけはなりとう無か…。あの夏もそう思った…。ほら、高三の夏、別れた夏」 節子はテーブルに置いたグラスを再び手に取った。 「ヨシアが関西に行くの迷っとった。私のせいで…。だけん、別れようと思ったと。それでヨシアが、ここに残るって言うっちゃ無かろうかと思って…」 義秋は眉間に皺を寄せながら、節子の言葉を聞いていた。 義秋の胸の中でずっと疑問だった。 涙で別れたくないから、少し早めに別れよう。 あの日、節子が突然そう言い出した。 問い詰めた義秋に節子は髪を振り乱して、 「どうせ別れな、いかんっちゃけん。今別れても同じやろ。私も早う次の恋愛ばしたかけん、別れて」 そう吐き捨てる様に言われた。 それを今でも鮮明に覚えていた。 義秋は俯いて力無く微笑んだ。 「そうだったのか…」 義秋は立ち上がり節子の傍に立った。 「お前はいつでも、俺の事を考えてくれているんだな…」 節子の頬を自分の身体に引き寄せた。 「ずっと…」 節子の消えそうな声が身体を伝って響く。 「ずっと、ヨシアの事、好きやったけん…」 「節子…」 節子はヨシアの身体に顔を埋める。 「ずっと、ずっと…。ヨシアの事、好きやけん…」 節子は泣いていた。 その涙は義秋の身体に吸い込まれる様だった。 そして身体に沁み込んだ節子の涙は義秋の中で、熱く燃え始めた。
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