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「じゃあさ、私、ちょっと街に用事があるけん、連れてって。私は買い物あるけん、その間にヨシアはホテルを引き払っておいで。節子、あんたもヨシアに付き合って」
智子はお茶を入れながら言った。
「ホテル代ももったい無かけんね…。その浮いた分で昼ごはんば食べさせて」
そう言ってお茶をすすった。
そう捲し立てられて義秋は圧倒されていた。
返事は「はい」しかない雰囲気だった。
「それから、お客様」
智子は義秋の顔を瞬きもせずに見る。
「当旅館の部屋にも、防犯上鍵が付いておりますので、就寝時にはその鍵を忘れずに掛けてお休み下さいね」
智子は怪しいイントネーションの標準語で言った。
その言葉を聞いた節子が何かに気付いた様に口に手を当てた。
そしてゆっくりと光生の顔を見た。
光生はわざとらしく目を逸らす。
節子は光生に見られた事に気付き、顔を赤らめて俯いた。
「まだしばらくおるっちゃろ…」
智子はテーブルに肘を付いて身を乗り出して義秋に聞く。
「ああ…。そのつもりだ」
義秋もお茶をすすりながら言った。
「それでしたら、ご宿泊は是非、当旅館をご利用下さいね」
智子は営業スマイルで席を立ち、セルフサービスのコーヒーカウンターへ向かった。
訳の分からない義秋は一人、怪訝な顔で外を見ていた。
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