第五章 真実

26/40
前へ
/354ページ
次へ
義秋は古谷旅館に大浴場にいた。 何故かこの大きな風呂が気に入ってしまった。 大浴場の隅で身体と頭を思い切り洗うと、昨日の酒が抜ける様に思える。 そうやって身体中を泡だらけにして洗っていると、横に光生が座った。 「お前、今日は休みなんだろ…」 泡が目に入りそうになるのを阻止しながら、義秋は光生に言った。 「ああ、土日、久々に休むよ。この町も久しぶりだ。ゆっくりさせてもらうさ」 光生は自分の身体を洗い始めた。 「人間、ずっと張り詰めていたら、いつか糸が切れてしまう。休むのも仕事の内だ」 義秋は頭からシャワーを浴び始める。 「そうだな…。何度も切れては結び、もう俺は結び目だらけだよ」 光生は身体を流す義秋を見ながら身体を洗った。 「お前みたいに女に癒されたいよ…」 そう小さな声で付け足す。 「え…、何か言ったか…」 目を閉じて頭を流す義秋が言う。 「ああ…ちょっと嫌味をな」 「嫌味…。なんでだ…」 身体を流し終えた義秋は、顔を手で拭いながら光生の方を見る。
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加