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「おばちゃん、美味かった…」
男はレジの横にある金を置く青いプラスチックのトレイに千円札を一枚出した。
「ありがとね…。七百円ね」
老婆は千円札を取ると指で弾き、札が一枚である事を確認する。
これも老婆の癖なのだろう。
レジの中からお釣りを取ると男に渡した。
「また来てね」
老婆はニコニコと微笑んで顔をくしゃくしゃにした。
男は曇った入口のドアを開けて、外に出た。
今年最大級の寒気が来ているらしく、外の冷え込みは肌を切るかの様だった。
今にも雪が落ちて来そうな灰色の空を男は目を細めて見上げる。
そして上着の前を合わせると、大型トラックの間に停めた車まで小走りに走った。
「ここに帰って来る事になるとはな…」
車に乗り込んだ男は、そう呟いてエンジンをかけた。
そして勢いよく車はその店の駐車場を出て行った。
海岸線に沿って作られた道幅の狭い国道には、強い風に煽られて飛沫を上げる波が時折打ち上がっていた。
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