3人が本棚に入れています
本棚に追加
「好きです、付き合ってください。」
その言葉に、気持ちなど、一切こもっていなかった。
そんなこと、当然見破られないわけもなく、飛んで来たのは、頬への一撃と、脳天を貫かれるような、蔑みの罵言。
慣れというものは恐ろしく、ほぼ日課となりつつあるこの行為に対し、精神・肉体ともに、いつからか痛みというものを忘れてしまった自分には、そんなこと、肩をポンポンと軽く叩かれる程度のものでしかなかった。
告白された少女は最後に、軽蔑にも、憎悪にも捉えられる表情で去り、代わりに物陰に隠れていた男どもが5,6人、嘲笑の意をそれぞれ口にしながら、此方へと迫る。
「ご・く・ろ・う・さ・ま。」
毎日かけられるこの言葉を聞く時ほど、己の弱さを呪い、こいつらへの憎しみが増幅してゆくのを嫌でも自覚する瞬間はなかった。
「・・・・・クソッ」
気づかれないようについた悪態。
彼らの都合のいい耳は、「やめて」という言葉が聞こえていないくせに、その悪態だけは聞き逃さない。
「アァ?テメェ文句でもあんのか?」
それから、どれだけ殴られたのだろうか、気が付けば、日も落ちかけていた。
服はボロボロ、金もむしりとられ、顔は血だらけの状態で、壁にもたれかかって座っていた。
でも、やっぱり痛みは感じなかった。
いつから、こんなに人間的な痛みを失ってしまったのだろうか。
あぁ、多分、あの日からだろう。
今から思えば、あの日の僕は、どうかしていたのかもしてない。
ただ、必死で、我を忘れて、いじめの現場へと突っ込んで、そのいじめられっ子を救って、こいつらに対し、勇敢に立ち向かっていく僕。
普段の意気地なしで、地味で、下手すれば自分もいじめられかねないようなひ弱なこの僕が、どうしてこんな行動に出たのか、自分の行動を一切理解できなかった。特に、許せないといった感情があったわけでもないのに。
気が付けば、周りには、血があふれていた。
返り血を浴びていた、自分がいた。
事情はどうあれ、自分は彼らに手を出してしまった、罪(ギルト)な人間と化してしまったのだ。
意識が戻った時に見た光景は、自分で起こした行動でありながら、自分を恐怖に陥れたのは間違いなかった。
今まで、いじめられないように、そういうのになるべくかかわってこなかった自分が、復讐という形で標的をこちらに向けるということを、全身の震えが物語っていた。
最初のコメントを投稿しよう!