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「おかえり、幸一君」 美咲子が息子に言うときと同じように声をかけると、彼は新聞紙にくるまれた大量の花の束を作業台に置き、美咲子と目を会わせた。 「お疲れ様です」 幸一は眼鏡のブリッジを手の甲で持ち上げて位置を正すと、その手で額を拭った。前髪の隙間から少し太めで形の良い眉がチラリと見える。 力仕事を多くこなしてきたがっちりとした体つきと、意思の強そうな瞳が気に入ったと社長が言っていた。 初めはとっつきにくい子だと思っていたのだが、一年程前からだんだんと柔和になり、今では美咲子と世間話もできる仲になった。彼が丸くなったのは店の常連であるかわいらしいお嬢さんとお付き合いを始めたからなのでは、と美咲子は密かに確信している。 初めて幸一から話題を振られた時、思わず顔がにやけ、彼に気味悪がられたのは楽しい思い出だ。 「随分貰ってきたね」 小手毬、カサブランカ、カスミソウ、八重咲きで紫色のトルコキキョウ、白いスカビオサ、ガーベラ各色、レモンリーフ、スプレーマム、それぞれが一掴みずつはいっている。 「ちょうど社長が市場から帰ってきて、持たされました。後から志乃さんが水揚げした奴持ってくるって言ってましたよ」 「志乃ちゃん、今日出勤してるんだね」 「元気なかったですけどね」 「そっか」 そろそろおばさんがしゃしゃり出ても文句は出ないかしらね。 美咲子は最近すっかり疲れた顔の志乃の顔を思い浮かべた。
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