第1章

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「先生、おはようございまーす!」 「おはよう。」 都立北高校。 進学校ではあるが、偏差値的にも校内風紀的にも中の上。 まだまばらな生徒たちの間を縫って、校舎へと入っていく。 「あ。 恵梨ちゃんセンセー!おはよー!」 「こーら。春名先生って呼びなさい。」 「ちぇーっ。あははっ」 校舎に入ると、人懐っこい女子生徒がすれ違いざまに声をかけてくるのでたしなめる。 春名 恵梨(はるな えり)。 24歳。英語教師。 高校教師になって3年目。 今年から晴れて、2年生の担任を持つことになった。 とは言ってもまだまだ新米で。 生徒からは、良い意味では懐かれ、悪い意味では舐められているのかもしれない。 廊下を突き当たり、ガラッと職員室のドアを開ける。 「おはようございます!」 元気良く挨拶すると、その場にいた教師全員が口々に「おはようございます。」と返した。 「春名先生。」 「はいっ」 自分の机に荷物を置いたところで、低い声に呼び止められ、慌てて振り返る。 「今度の授業で、学年共通で使用するプリントです。よろしくお願いします。」 事務的な口調でそう告げる声の主は、かなり見上げないと目を合わせることができない。 中藤 拓真(なかふじ たくま)先生。 数学教師で、2年の学年主任。 私に差し出すプリントの束を持つ左手の薬指には、銀色に光るリング。 見た目年齢30代前半。 眉目秀麗。容姿端麗。 女子生徒にもファンの多い人気教師。 だけど妻子持ち。 「ありがとうございます。」
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