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ピタッと、佐々木君の足が止まった。
顔だけで振り返る。
「そのピアス、校則違反だって言ったよね。」
ゆっくり体も振り返った佐々木君が、今日初めて私の目を見た。
瞬間、ゾクリと震える体の芯。
その目に見られると、いつもそうだ。
まるで囚われたように動けなくなる。
彼の目は、人の目じゃない。
そう、まるで
獣のよう。
森の中に潜み、獲物を狙う。
その目に見つかった者は、逃れることはできない。
気づいた時には、もう捉えられているーー
私が瞬きもなくその目から視線を外せなくなっていると、突然視界の中で佐々木君が動いた。
左手が勢い良く耳元を掴むと、次の瞬間、何かを床に投げつけた。
パシーンッ
小さいながらも鋭い音を立ててピアスが私の足元に転がる。
「………。」
これで満足か、とでも言いたげな視線を最後に投げつけて、また廊下へ向かって歩き出した。
私はしゃがんで落ちたピアスを拾う。
「……。」
その時気づいた。
ピアスが転がった床に、微かながら血がついている。
はっとして顔をあげた時、もう教室のドアを出ていく寸前の佐々木君を捉えた。
その手元に、確かに見えた血の跡。
制服の袖にも滲んでいる。
「…まっ」
「先生、もう朝礼の時間です。」
待って、と言おうとした私を、川島さんの凜とした声が遮る。
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