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それから妙に気のあった夏樹と修一は、毎日のように昼を一緒に過ごすようになった。
「修一、今日は修一の好きな鶏の照り焼きを入れたよ」
「ありがとう」
昼休みの男子校の中庭で、男子高校生二人が手作り弁当を挟んでベンチに腰掛けている。
夏樹お手製の弁当は、彩りもよくとても美味しい。
これまで接点のなかった二人が、突然親密になったことで一部の生徒らの間で二人はデキているとまことしやかな噂が流れていた。
もちろん修一の耳にも入っていた。修一は細かいことをあまり気にする方ではないので聞き流していたが、夏樹はどうだろうか。
「ところで夏樹、例の噂知ってるか?」
「噂? 何それ」
「俺とお前が付き合ってるっていう……」
修一が言い終わる前に、口に含んだお茶を夏樹が吹き出しそうになったため、修一が慌ててタオルを手渡す。
「な、なっ、何それ! 俺と修一が、つ、付き合って……って……ええっ!?」
「まあ、落ち着け」
よほど驚いたのだろう、タオルで口元を押さえた夏樹の顔が真っ赤になっている。
「ただの噂だし。俺は別に気にしてないけど、お前って結構気にしいだろうが」
「お、俺もそんな、きっ、気にしてなんかいないって! いやだなあ、あはは……」
そう言う夏樹の目は完全に泳いでいる。
夏樹本人から聞いたわけではないが、おそらくこの天然ボケな友人は未だ誰とも付き合ったことなどないのだろう。反応がいちいち初心すぎるのだ。
「それならいいけど。気になるようなら俺が何とかするし」
「……」
夏樹はタオルを口に当てたまま、ふるふると首を横に振った。
「夏樹、お前……」
「何? 修一…………っ」
一瞬、間が空き、そのまま夏樹はカチンと固まってしまった。
「おい、夏樹? 大丈夫か?」
「――――な……なっ、修一っ!? いっ、今、キ、キ、キスっ!?」
我に返った夏樹が、シュウと頭から湯気が出そうなくらいのぼせた顔で左頬を押さえている。
「何でだろ、夏樹見てたらしたくなった。まあ、いいんじゃね? これくらい友達同士ならアリだろ?」
平然と言う修一に、ひとり狼狽えるのも何となく悔しくて、夏樹は「そうだよね、これくらい何てことないよね」と言いながらも心の中は全く穏やかではなかった。
そんな夏樹にさらに強烈な出来事が起こるのはもう少し先のお話。
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