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朝の満員電車の中で今村修一(いまむらしゅういち)は様子のおかしな可愛い女の子を見かけた。
中学生になったばかりだろうか。まだ幼さの残る女の子は電車のドアに背中を預けるようにして立っており、ショートカットの髪型から除く耳が真っ赤になっている。
(痴漢だ!)
うつ向く彼女を見て瞬時にそう判断した修一は、人混みを強引に押しのけ電車のドア付近まで近づくと、女の子とその前に立ち鼻息を荒くしている中年の男との間に割って入った。
「おっさん、何やってんだよ」
背中に女の子を庇いながら、修一が男の耳元に囁きかける。
「……なっ、何を言って……」
「しらばっくれてもムダ。俺、ずっと見てたから。ちなみに証拠もあるし」
そう言って、修一が男の目の前に携帯をちらつかせた。
「――――っ」
「どうする? 出るとこ出るか?」
思い切り睨みをきかせた修一が顔色を無くした男の方へ近づくと、男はギュッと唇を噛みしめ、がっくりと項垂れてしまった。
「あの……もう、いいです」
蚊の鳴くような声が修一の背後から聞こえ、ブレザーの裾が軽く引っ張られる。
「え?」
「もう、いいです。俺……慣れてるから」
「は?」
(俺?)
思わず修一が背後を振り向くと、ちょうど修一が見下ろした位置に、ふわふわとした紅茶色の癖毛と、天使のイメージ画から抜け出たような幼さの残る可愛らしい顔――そして、修一と同じ男子校のブレザーがあった。
「…………」
言葉をなくした修一が立ち尽くしいる間に電車が駅へ到着したようで、間もなくドアが開くと件の痴漢男が慌てて電車から飛び出した。
「うわっ!」
「危ないっ」
痴漢男に突き飛ばされた女の子――いや、男の子がバランスを崩してよろける。とっさに伸びた修一の手が、男の子の腕を掴み、そのまま電車の中へと引っ張り込んだ。
電車の扉が閉まる。
思いがけず、修一は件の生徒と抱き合う形になってしまった。
修一は何とか彼の背中に回した腕を外そうと試みたが、扉と彼の背中に挟まれた腕は、満員の車内で周りからの圧力によってがっちりと拘束されて動かない。
また下手に修一が体を動かすと、下半身の微妙な部分が彼のその部分と擦れ合ってしまうのだ。
あと十分もかからず、電車は学校の最寄り駅に到着する。
修一は溜め息をひとつつくと、腕の中で真っ赤になっている男の子から離れるのを諦めた。
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