16歳のダイアリー

111/184
前へ
/184ページ
次へ
「はあ。 大変ですね」 と、 お決まりのように話を合わせる。 「なんか、 あなたが善良そうな学生さんに見えて…」 お母さんは長い髪をアップにしていて、 ゆるゆるのTシャツを着ていた。 ちらりと顔を見ると、 案外若そうだった。 多分二十代の始めぐらいだろう。 「誰かと待ち合わせ?」 「あ、 いや。 俺も暑いから、 ちょっとこう、 コイツで走ってみたくなって」 と、 単車の方に目をやった。 「そう。 暑いわね。 大学生?」 「いえ、 高校です」 「あら、 そう。 大人びてみえたから。 どこの高校?」 「川崎新町校」 「え、 ほんと?わたしもそこの卒業生なの。 わあ、 懐かし。 新聞部の磯本先生、 まだいる?」 「いますよ。 イソヤン。 英語のね」 「そうそう。 すごく面白くて、 人気あるでしょ。 じゃあ、 久家先生は?体育の」 「ああ、 います、 去年結婚して、 田中って名前になってます」 「わあ、 そうか。 担任だったんだあ。 あ、 ごめんなさい。 つい色々しゃべっちゃって」 お母さんは立ちあがった。 そして子どもをちょっとゆすりながら、 様子を見ている。 時々ふあーとか、 あわーとか、 泣きそうな声を出すたびに、 お母さんは、 その子の背中をさすったり、 揺らしたり、 抱き方を変えたりしていた。
/184ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加