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これは一時期、とある小さなSNSで広まった噂。
ジャンル毎に集まる日常の疑問と回答、その中に投じられた一つの質問が発端だった。
「ミツメヒメをご存じの方はいますか?」
投稿されたジャンルはオカルト。
大手SNSでは否定派と肯定派が激しくぶつかる怪しげなジャンルではあったが、小さなコミュニティであるそこでは質問に対して淡々と意見が寄せられた。
「八百万神の一柱」「民話の妖怪」「廃村の伝承に記された女性」…多数の情報の中、質問者が興味を示したのが「三日前に夢で会った」という書き込みだった。
質問者も同じだったからだ。
更にもう一人、同じようにミツメヒメに夢で会ったという人物が現れ、三人の書き込みを中心に話題が盛り上がった。
三人の見た内容はまったく同一のもので、しかも夢の中で三人はお互いのことまで見知っていた。
夢の中で三人は横並びに並んで正座し、対面にミツメヒメが立っていた。
ミツメヒメは長い黒髪に白い和服を着た清楚な女性で、幽霊や妖怪という不気味な雰囲気ではなく、高貴で上品な印象だったという。
そのミツメヒメが、三人を一人ずつ指差して、
「ひとつめ、ふたつめ、みっつめ」
と言う。
夢の内容はそれだけだったが、目が覚めても印象深く記憶に残り、質問者は、何かわかればと思い投稿したのだという。
ミツメヒメが宣言したひとつめ、ふたつめ、みっつめが何だったのかは、投稿されて一週間が過ぎ、話題の盛り上がりも収まった頃に知ることになった。
SNSに書き込んだのは「みっつめ」と言われた質問者ではなく、「ふたつめ」と言われた男性だった。
「ニュースを見てくれ。首を切断された殺人事件の被害者…あれが『ひとつめ』だ」
SNSは色めきだった。
いろいろな憶測が書き込まれ、翌日のニュースで更に過熱した。
「ふたつめ」もまた首を切断された死体で発見された。
質問者「みっつめ」は怯えきって「これからお寺に行く」と書き込んでSNSから消えた。
翌日発見された三つめの首が「質問者」だということは、そこに関わった全員が悟っていた。
SNSの内容は警察の知るところとなったが、書き込みを見た全員にアリバイがあった。
事件は未解決で終わり、SNSでも風化しかけた頃、一つの質問が投稿された。
「ミツメヒメをご存じの方はいますか?」
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