『恋愛小節1997』 和泉ヒロト

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1 過去を振り返ることは、決して後ろ向きな行為ではない。   だけど。   それは、単に思い出として思い返すなら良いとして。   再び、その過去を現実に引き戻すのは。   往々にして、止めておいたほうが良いのだ。     だって。   それは、きっと。 パンドラの箱を開くようなことに、違いないのだから。       1995年の春。   麻里恵は、ハリウッドにメイクアップの勉強をするために旅立った。   俺と麻里恵は数ヶ月の短い同棲生活を過ごした後。   麻里恵は、ひとりで旅立って行ったわけだ。     俺は、新宿の富久町に麻里恵と古い一軒家を借りていた。   2DKで13万円の格安物件で。   その家は、値段に見合うほどの古さだった。     でも。   俺と麻里恵は、その家で本当に幸せな時間を過ごした。     麻里恵が留学していた一年半は。   俺ひとりで、ひとりでは広過ぎるその家で過ごして来た。   ただ、麻里恵が帰って来る日を楽しみにしながら。     一年と半年が過ぎて。   麻里恵が日本に戻って来た。     成田空港の到着ゲートを出て来た麻里恵は。   一年半前と同じ笑顔を見せて。   俺の胸に飛び込んで来た。 そんな、幸せな時間が。 麻里恵となら、ずっと過ごせるんだって。 そのときの俺は。 少しも疑わずにいた。
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