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何も言えずに唇を噛むと、彼は暗い瞳で笑って見せた。
「言えない?」
僕の顔の両脇に手を着く彼。彼の手足が、檻のように僕を閉じ込める。
「いのりは、俺のこと信用してないんだな」
彼は、笑っていた。
とても綺麗に、笑っていた。
「違……っ」
「違わない。つらくても、頼れない。苦しくても、話せない。いのりにとって俺は、その程度の人間なんだろう?」
違う。
僕は。
「いっそのこと、このまま閉じ込めてしまおうか」
僕の頬に口付けて、彼が微笑む。
やわらかなキスは、いつもと変わらず温かかった。
「……いのりが俺だけを見るように」
そんなことしなくとも、僕はあなたしか見ていない。
僕はそう言いたかったが、胸が苦しくて言葉にならなかった。
いのり、と僕の名前を呼び。
彼は自らのネクタイを襟元から引き抜くと、それを僕の手に巻き付けた。両手を頭上でひとまとめに束ねられ、僕は王様への供物と化した。
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