第1章

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 寂しさのあまり、冷たくなって動かない、小さな塊となって……。  「王子は自分にとって一番大切な物はなんだったのか、わからなくなってしまう所でお話しは終わってしまうのよね」  「僕は嫌いだな」  え?  ぴしゃりと。  智哉君は吐き捨てるように言った。  「わかるよ~。佐倉はこういうおとぎ話は苦手そうだもんね」  「そうじゃない。 この王子の行動が気に入らないんだ」  「え……」  「ふーん、まあ、わかるけど。一応聞いてみようか?」  「最初は王子は白い小鳥と一緒にいたのに、それを置いて旅に出るだろう?」  「じゃないと話しが進まないからね」  「王子は旅に出ちゃいけなかったんだ。一生、小鳥と暮らしていけばよかったんだ」  それだと、話しにならないじゃない……。  「小鳥をだれに触らせないで、2人でいればよかったんだよ」  「ははは。そりゃあものすごく独占欲が強い王子様だねえ」  「まあね」  智哉君、そっけない……。  「もう、智哉君にはkの話の良さがわからないのよ」  「そうかもね」  そのまま。  智哉君は行ってしまった。  「あーあ、怒らせちゃった」  「え、私なにか悪いこと言っちゃった?」  すると、美琴ちゃんはニヤニヤしながら。  「まあ、佐倉も苦労するってはなしだよ」  「……」  「あんたの王子様好きは仕方ないけど、少しは周りを見回せってこと」  「え……」  「まああたしは王子様より玉子様だけどね、ははは」美琴ちゃんはお弁当の玉子焼きを口の放り込んでそう笑った。  それから美琴ちゃんとお昼を食べたんだけど。  私は、智哉君の不機嫌の理由が気になって、あまりおいしいとは思えなかった。  「ふう、一人なんてひさしぶりかな……」  晩ご飯の買い物が早く終わったので、公園のベンチで一休み。  賑やかなのは楽しいんだけど、時々はひとりになりたいのよね。  見ると、子犬がことこと歩いている。  「……ふふ、こっちおいで」  私は手招きしたのだけれど。  「シュガー! こっちにおいで!」  飼い主らしい男の子に呼ばれて、向こうへ行ってしまった。  私は子犬を目で追いかけながら、ため息をついた。  「……いいな、犬、飼いたかったな……」  「かなたちゃんは昔から犬が好きだったね」  背中のほうから声がしたので、私はあわてて振り向いた。  「智哉君! どうして」
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